(一)
水の国は風のない海にあります。
風のない海に波は立たず、鏡のような沈黙が青空と雲を映しています。地上はいつの間にか海につながり、またいつの間にか海と離れます。歩いていく僕の足も、気がつくと踝まで水に浸かっており、気がつくとまた干上がった白い珊瑚礁の上に立っています。
空には空だけの風があります。流れる雲の影が地表を過ぎていく度に、どこかひやりとした記憶が呼び覚まされ、そしてまたたちまち消えるのです。だからある時の僕には逃れがたい過去があり、ある時の僕には生まれたてのように何もありません。
遠くには回らない巨大な風車があります。羽根の先端に光がとまると、それは海の何処かで病んでいる人魚にとって、抗い難い誘惑となるでしょう。声を失っても何かを得たい、と彼女は思うはずです。それが何かはわからないまま。
僕は考えます。希望というものがもしもあるなら、それは淡い緑色をした稚魚のようなものだろう、と。そしてそれは水の国の何処にもいないものなのだ、と。不在が帯びる無色の恐怖も、ここではまだ甘い氷砂糖を含むような感触でしかないのですけれど。
(二)
駝鳥の卵を買わなければいけなくなって、籐で編んだ篭の底に紫のビロードを敷いて出かけた。三時頃家を出たが、木靴の先に割れ目が入りかかっているのが気になり、いつもより遅れがちに歩いた。
紫水晶が所々で剥き出しになった岩山へ登り、峠を下りたところで、夏の風が心持ち冷たさを帯び始めた。日暮れに入ったのだ。日輪は沈んで見あたらない。例の迸るような夕焼けもないのに、空は明るく暮れ残っていた。一群の雲が行く。北氷洋では大きな鯨が今、流れる氷塊を水底から見上げている。僕は純銀でできた雲の連なりの遙か下方に沈み、右手に篭を提げて突っ立っている。雲と僕の間を、すうっと鳥が滑空する。今までに見ない、白色の、暗い光を帯びた鳥影だった。まだ生まれていない駝鳥の子の魂が一散に卵を目指しているのに違いない。と、僕は思った。
僕は不安だった。これから街の雑踏へ入り、喧噪の中で買い物をし、再びこの場所を通って山道を登る。その時にはもう夜はたっぷりと厚みののった闇をまとい、僕の小さなランタンが、悲鳴を上げて逃げまどう小鬼のように揺れるだろう。
どんなに想像を巡らしてもだめだ。それはまだ始まってすらいない出来事なのだ。確実にやってくるにも関わらず限りなく遠いことなのである。
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>だからある時の僕には逃れがたい過去があり、ある時の僕には生まれたてのように何もありません。
>それは海の何処かで病んでいる人魚にとって、
>まだ生まれていない駝鳥の子の魂が一散に卵を目指しているのに違いない。
>確実にやってくるにも関わらず限りなく遠いこと
>遠くには回らない巨大な風車があります。羽根の先端に光がとまると、それは海の何処かで病んでいる人魚にとって、抗い難い誘惑となるでしょう。
小学校の卒業写真を見る
同じクラスの子が並ぶ背後に
巨大な楠木が枝葉を茂らせている
子どもたちの顔は半分くらい覚えているが
この巨木は
ぼくの記憶の印画紙に焼きついていない
楠木は校庭の中央に立っている
校門と教室の往復のたびに
その近くを通ったはずなのに
眼の前に大きく
立つものが見えていなかった
校庭の隅の
ジャングルジムで
銀杏が葉を落とし
秋雨に濡れているのを
長靴で踏みしめながら
近づく冬の気配を見つめていた
空に白い二重線を引く飛行機雲も
遠くに小さく突きでている
二等辺三角形の富士山も
校舎の屋上から見えた
校庭の真ん中に
窪みのある幹と
枝の肘を曲げて
無数の葉で陽を浴びている楠木は
半世紀を経て写真の中に
初めて見た
幼いころは
いつも下を向いて
周囲を見ないようにしていた
乱暴な男の子
授業中にぼくを指すかもしれない教師
死や病の像を引きずりだす映画や漫画
目の前に大きく立つものを
見たくなかった
弱すぎてこの世に生きていけない
とぼくはおもった
今は目の前に立つ
大きなものが
見えているだろうか
肌は楠木の幹のように彫りこまれ
神経は茂る葉のように揺れ
感情は風にしなう枝となり
ぼくの記憶を根にして立つ樹が
ぼくを見おろしているのを
>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20081217_252_3214p
>死や病の像を引きずりだす映画や漫画
洗面台で蛇口をひねる午前5時
鳥のさえずりは黄色に跳ね
カルキ臭が洗面ボウルにつうんと鳴り渡る
窓から眺めるアパート前の公園は
つけっぱなしのパソコン画面そっくりに
生臭い陶酔とわずかばかりの現実感を持って
うす暗い浴室をしらじらと照らしあげる
8時の窓から眺める公園はハレムだ
垣根のトケイソウ群が
しなやかな手足をぐねぐねと金網に絡ませ
大きな瞳をしばたたかせている
擦れ合うながい睫毛から立ちあがる
甘く切なげな香りが
今にもこちらまで漂ってきそうだった
私はうやうやしく髪を結いながら
窓枠にもたれかかり
通りを過ぎる大きなランドセルを背負った少女達の
その痛ましいほどの細い身体を
ただ口惜しげに見送っている
午後になるとすり鉢の錠剤を砕く
それから完全に粉末になったこれを
スプーンで瓶口からさらさらと落としていく
瓶を片手に画面をスクロールする
ミルクシェイクをあおるたび
並んだ文字列がガラスの中を落ちていく
タバコの先で腕に印をつける
今日で253個目となるそれらは
皮膚で規則的な模様をつくっていた
廊下に散乱するビデオカセットを蹴り退け
再び浴室へ引っ込む午後4時には
充満する蒸した藁のような匂いが
柔らかな雨を知らせていた
全身に泡立てたボディソープを塗りたくる
眉から脚にかけての体毛という体毛を
執念深く剃り落としていくカミソリ
刃は大抵1週間で駄目になる
キャビネットの香水の空き瓶には
錆びた刃が累々と積みあがり
青臭い感傷という名のこのオブジェを眺めながら
浴槽のクレゾール石鹸液に沈むあいだ
私はしばらく死体のふりをしている
窓をびたびたと打ちつける雨
吹き溜まる妄想
常に苛まれている私が
なによりあなたを高揚させただろう
つなぎ寝巻の袖から伸びたごつごつした手指が
静かに録画ボタンを押す午後6時
窓ガラスにぼやりと映るおさげ髪の中年男
これはまた派手にやらかしてくれたね
蹴りあげた鉄格子の向こう
7時の面会にやって来たあなたが微笑む
>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20081222_279_3218p
>これはまた派手にやらかしてくれたね
海のそばにあるちいさな店で、ピアニストが最後の曲を演奏しはじめると、おたがいの腰
に手をまわした老夫婦が軽快なステップでテーブルのあいだを縫っていく。潮風に傷んで
しまったのか、木製のテーブルはどれも重心がさだまらず老夫婦とともに揺れてしまうか
ら、そのいくつかに置かれていたグラスは、中身をあふれさせたり、床でくだけたりして
いる。けれど、それらをかたづけようとするだれかは、もういない。
演奏が終わりにむかうにつれて、ピアノの鍵盤が低い音から順番に失われていく。
熱っぽい視線をからませていた老夫婦は、いまでは老女だけになり、それでも、まだ伴侶
がそこにいるかのように、虚空をしっかりと抱きながら軽快なステップを踏みつづけるそ
のひと足ごとに、くだけたグラスの破片が重力をわすれて舞う。ピアニストはすこしずつ
上体を右によせ、神経を指さきまでいきとどかせたまま、かつて、波うちぎわで遊んだう
つくしい恋人のことを思い浮かべて、静かに微笑む。
どうしても単調になっていく演奏をおぎなうように、低く海鳴りがきこえてくる。
ドレスのすそを摘んだ老女は素足で水を跳ねあげ、さえぎるものがなにもない、かつての
波うちぎわをじゆうに踊っている。目にうつるすべてがまぶしいくらいに反射しているけ
れど、きっと、朝はまだおとずれないはず、どうか、もうすこしだけ、と、歌っている。
そして、そっとペダルから足が外れ、ほんのいっしゅんだけのぞいた朝のひかりをおおう
高波のなかに、最後の音はさらわれて。
>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20081231_358_3235p
>目にうつるすべてがまぶしいくらいに反射しているけ
>ピアニストが最後の曲を演奏しはじめると、低い音の鍵から順番に失われていった。
>私には祖母の性交が想像できない
>進むにつれてやや失速していく感が少しあります。
>イメージするも常に先へ先へと回り込まれている感覚
>楽曲はひとつも出てない
>テンポが悪い
使い終わったフォークとナイフを盆に投げ出し、
ナプキンをかぶせる
淹れ立てのコーヒーの湯気を鼻の頭に当てる
いいだろう、決裂だ
解体された肉の残りにも
脂は申し分なくのってはいるが
満腹だ、必要とされなければ
残飯だ、神経の切断は
世界を彼我に切り分けた
主人は満腹なのであり
満腹だと感じているのであり
満腹だと言うことができる
たいへん満足している
執着はない
車椅子に載った主人は
食べ残しの部屋を出ていく
黒く磨かれたテーブルの上には
膝を伸ばした脚が一本載っている
>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20081229_330_3230p
>ゼッケンさんはじめまして。
>満腹だ、必要とされなければ
>残飯だ、神経の切断は
>世界を彼我に切り分けた
(1)
ホーキンスさんの顔はくしゃくしゃだった。ホーキンスさんをみているとこれくらいの年齢で人生を終わるのが楽ちんかもしれないと思った。外はまっ白になる一方で夕暮れになるとみんながそそくさと帰ってしまうこともしかたがないと思った。ホーキンスさんが眠りにおちるとあたしはアメリアを抱いて病室をあとにした。帰り道に厚手のコートが落ちていたらアメリアをほうりだしてあたしはたぶんそれを手にとってしまうような気がした
暴力団は水曜日になると決まった時間にやってきてあたしの家の近くでどんぱちをはじめた、あたしは人生のステップアップのために役に立つ資格をとろうとしてるんだけど、どんぱちが始まると勉強どころじゃなかった。それよりもあたしが言わなきゃいけないことは試験問題がじぜんにもれてたってこと。それはずいぶんとあとになってわかったことだけど、そのせいであたしの人生が台無しになったなんて嘘みたい
(2)
ホーキンスさんが病院でなくなってからあたしは毎日夢をみた。銃声がきこえて銃弾があたしの頭をかすめたり、銃声がきこえて銃弾があたしの頭をかすめたり、銃声がきこえて銃弾があたしの頭をかすめたり、銃声がきこえて銃弾があたしの頭をかすめたり、銃声がきこえて銃弾があたしの頭をかすめたりした。夢の中で起こることだってすこしくらいは現実になるのかしら、
(3)
アメリアは生まれたばかりの赤ちゃんだった。そしてアメリアはいまのあたしと同じ年齢になってそのころには午後三時にどこかへ出掛けるのがあたしたちのかずすくない日課でデパートの特売セールで購入した冷蔵庫が壊れた時に二時間くらい遅刻してやってきた修理工と結婚して生まれたのがアメリアでだけどもなんてことはなくてあたしは彼女にそのことは何度も説明した。だからといってあたしたちのあいだがぎくしゃくすることはなかった、
あたしがいくつかの届出をおこたったせいでアメリアにとっては不都合なことがつぎからつぎへと起きた。例えば彼女には本当の名前がなかったし、それであたしはアメリアと呼ぶことにしたんだけど、なんかの雑誌の表紙にのってたモデルの名前を借りたのだ。アメリアにそれを言うと、いつか返さなきゃ駄目なのって言ってたけど、アメリアに返すあてがあるのかはわからなかったし、ほとんど迷惑に思われるに違いない、どっちにしても。
(4)
ホーキンスさんの葬式が終わるとみんなはいちように退屈な顔で帰っていった。水曜日に葬式をしたのがそもそもの間違いなのだ。あたしたちは暴力団のどんぱちが気になってホーキンスさんの生前に思いをはせるまでに至らなかった。自分が死んだときには自分がどんな棺おけにいれられるんだろうってそんなことばかり考えてた。あたしもよとアメリアが言って、知らない女の子があたしもよとあたしたちのうしろから言ったのが聞こえた
(5)
ホーキンスさんが暴力団と敵対していたことは全国ニュースにもなったし世界中の誰もが知っている。それが原因でホーキンスさんは命を落としたのだ。
(6)
冷蔵庫の中には瓶がいくつかあって瓶の中にはピクルスがあった。それは家族のだれかの大好物でピクルスが合いそうなおかずの時にはあたしもよく食べたりした。瓶がからっぽになるとそれを冷蔵庫の中にもどして、あたらしい瓶がはいりきらくなってはじめていつくかのからっぽの瓶を捨てて、それを年中くりかえしているから冷蔵庫の中にはいつも瓶があった。そして瓶の中にはいつもピクルスがあった。
(7)
けっきょく、試験には受からなかった。筆記試験は三回目に合格してそのあと七回つづけて口頭試験でうまくいかなかったから。あたしが出会った面接官は合計二人でそのうちの一人とは街で何度かすれ違って気安く挨拶なんかしてみたけど、だからといってそれだけじゃうまくいかないもの。そのとき、事実上あたしは人生をはんぶんあきらめた。人生のはんぶんがどこからどこまでか決めることはもっと複雑だけど、とにかくあたしは人生のはんぶんをあきらめることを決意した
あたしはしばらく泣きそべった。だれのハンカチかしらないけどそれで涙をふいた。
(8)
いわゆる遺産というものはだれの手にもはいらなかった。それはホーキンスさんの遺書にも書いていないし、あとから知った話でもなかったけど、だれもがそう思ったのだから本当なんだろう。
ホーキンスさんがなくなる前の日にあたしはアメリアをつれてホーキンスさんの病室を訪ねた。なんにんかの看護婦さんに囲まれてホーキンスさんはとても楽しそうだった。アメリアは大好きな詩を朗読してホーキンスさんにきかせ、そのときだけはみんなしずかにアメリアの声をきいた。
(9)
暴力団はどんぱちをやめなかった。
それでも暴力団はどんぱちをやめなかった。
(10)
あたしはアメリアを寝かしつけるとドレスに着替え、家を出た。暴力団がどんぱちをやっていて、あたしは暴力団の中にはいって、
あなたたちのおかげで街はまえよりもずっとしずかになりました、ありがとうございます、感謝をしているのです、あなたたちがホーキンスさんと敵対していたことも知っているのですよ、ご存知のようにホーキンスさんはなくなりました、だからといってあなたたちがどんぱちをやめる理由などないというのもわかっていますしそれどころか気のすむまでおやりなさいなんてほんきで思っているのです、あたしは人生のステップアップのために役に立つ資格試験に何度もおちた女ですから、そんなおんながあなたたちの目の前でたいそうなことを言えるなんて思ってなどいません、だけど、今日があたしの人生の最後の日になる予感がしたんです、だからこんな色のドレスをあたしは着てるのです、考えてもごらんなさい、こんな色のドレスを正気で着れる人なんてだれがいましょうか、だけどもあたしはほんとうに正気なのですよ嘘とお思いなら撃ってくださいな、あなたたちがいつもやってるようなふうにあたしを撃ってくださいな、なにをかくそう、あたしは正気なのです、ただ人生のステップアップに失敗して、いまはこんなすがたなのにあなたたちになにかを言おうとしてるのです
(11)
その日は朝になってアメリアが目を覚ますと家にはだれもいなかった。ほんとうにここにだれかいたのかしらとアメリアは思った。もういちど寝ようとしたけどうまくいかなかった。もういちど寝ようとしたけどやっぱりうまくいかなかった。アメリアの部屋にはだれもいなかった。アメリアは起きあがるとホーキンスさんがむかしくれた手紙をつくえから取り出してよみはじめた。それはお母さんが昨日くれた手紙とまったく同じないようだった。アメリアは読みおわるとバカみたいって言ってもういちど寝ようとした、こんどはうまくいって、けっきょくバカみたいなのは
(12)
あたしだった
>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20090107_443_3245p
>けっきょくバカみたいなのは
>(12)
>あたしだった
>冷蔵庫の中には瓶がいくつかあって瓶の中にはピクルスがあった。それは家族のだれかの大好物でピクルスが合いそうなおかずの時にはあたしもよく食べたりした。瓶がからっぽになるとそれを冷蔵庫の中にもどして、あたらしい瓶がはいりきらくなってはじめていつくかのからっぽの瓶を捨てて、それを年中くりかえしているから冷蔵庫の中にはいつも瓶があった。そして瓶の中にはいつもピクルスがあった。
>冷蔵庫の中には瓶がいくつかあって瓶の中にはピクルスがあった。それは家族のだれかの大好物でピクルスが合いそうなおかずの時にはあたしもよく食べたりした。瓶がからっぽになるとそれを冷蔵庫の中にもどして、あたらしい瓶がはいりきらくなってはじめていつくかのからっぽの瓶を捨てて、それを年中くりかえしているから冷蔵庫の中にはいつも瓶があった。そして瓶の中にはいつもピクルスがあった。
>けっきょくバカみたいなのは
>(12)
>あたしだった
胡坐をかいて縁側に座る。
今日はずいぶん日射が痛い。
妻の注いだダージリンティーは
もうすっかりまどろみ、
体液に近い温度になっている。
カップを掴もうとする手の歪さが、ふと滲んで
私はすっかり困り果て、
フローリングの溝をなぞる。
*
幼い頃だった。
父はよく折り鶴をつくり、
くちばしの尖った部分で私の頬をつついては、
面白がって笑った。
表情は思い出せないが
頬にあるえくぼの影が怖かったのを覚えている。
いつかそのくらやみに
飲み込まれるような気がしたからだ。
*
日が暮れ
夕飯の時間になると、
何故か時々、
皺皺でぱさぱさに乾いた玉子焼きを
母と私に、父はふるまった。
やたら甘くて苦手なんだ
とは、
言えないまま食卓をかこんだ。
むしあつい静寂の中の団らん。
扇風機がどこともつかない方向をむいて、
ひとりでカラカラと
音を立てながら、踊っている。
夕飯後は決まって、
父とお風呂に入った。
くたびれた手のひらで乱暴に私の背中を流す。
(きっと背中には
(赤い痕が水溜まりのように
(浮いているのだろう
湯船につかりながら、
横に置かれたタオルがまるで、
玉子焼きのようで
その度に甘い唾が口の中に広がって、
やはり私は、全く
玉子焼きが苦手だと思った。
暖かい夜風が、
夏をやわらかく切り取っている。
かざぐるま、の音の響く
まっくらな木々の葉、
一枚、一枚それぞれが
さやさやと揺れている下で、
蛍光色の外灯が明滅している。
視力を失った鳥たちが、
一斉に旋回を始め
夜の隙間に挟まっていく
*
父と私は家の前の溝に並んで、
せんさいな紙縒をつまみ
ひゅう、と
ロウソクから火をうつす。
あかりが、灯る。
線香花火の橙の玉をつくること、
父は
それだけはとても上手だった。
息をひそめて、膝をだく。
散らばる線/集まる点
輪郭がふるえる
水中に落とされていく種
生まれる 祈り
のような呼吸で
繰り返し 産まれては
消える
明けない夜はないのだと
息をひそめて、膝を抱く
*
日が、かげってきたのだろうか。
父のえくぼの影のような、
暗がりが、うっすらと
辺りを包み始めている
もしかすると、それは
おい、
と、妻を呼ぶ。
はたはたと足音が近づく。
右隣に座った気配がして、
指をそっと、重ねる。
歪な指である。
薄荷を含んだような清涼な風が二度ほど、
通り過ぎていった。
お茶、いれなおしましょうか
―ああ、
頷き、
強ばった頬を僅かに緩ませる。
遠ざかる、
顔のない妻。
色とりどりの折り鶴が
後ろをついていく。
ふと、
とびきり甘ったるい
父の玉子焼きの香りが
立ち上っているような
気がした、夏の隙間で
視力のない鳥が
旋回を繰り返している。
>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20090107_450_3246p
>顔のない妻。
>色とりどりの折り鶴が
>後ろをついていく。
>はるらんさん
>家族の団欒のようで、団欒じゃない。
>この家族、ちゃんと呼吸しているのかな?
>いつのまにか、そんな父親そっくりになってしまっている主人公も、
私は、カーディガンに、
ルビをふる、
魂から、零れ落ちる、
台詞のない、
幽霊が、
服を着て、町を歩いている、
この寒さ、
耳を、凍えさせる、
防寒具はもう昨夜のうちに、
作者の、こだまする、
魂から、
温暖な、地方へ逃げ去った、
あれから、作者は、
体を動かしながら、
笑った、
笑いの中に、
一筋も、凍えるものが、なにもないのなら、
私たちはいつだって、
魂を、ここに捨て去ることだってできるはずだ、
昼下がり、カーディガンが、
月をたたく、
あの、光線を送り続ける、
葡萄の、果実を、
唇で、開き、
天気を、再度呼ぶために
(降らせる)
カーディガンに、ルビを降らせる、
都市の、荒廃した姿を、
思い浮かべながら、
ずっと遠くまで、
詩人のいない、世界で、
口笛を、ふくように、
この寒さ、
耳を、口を、瞳を、
覆うようして、
言葉が始まる
>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20081229_320_3228p
かなりのスピードで頭の中をリビルド 水族館の魚のように虚ろに睨まれている ビルの陰から銃撃隊が列になって連なってくる 逃げろ 頭の隅で作動するシステム 感知ー監視 まだ動けない フライトするヘリコプタの群れに 報道局がカメラをまわす ミラーガラスに俺の顔がうつる 死にそうな魚の目をしている どこかの屋上から拡声器が声を乱れさせ またどこかからは紙吹雪が舞っている パレードー それが合図であったかのように 広い道路の脇では歓声が上がり 高級車と思えるような何台もの車と 派手なトラックと ライフルを持った警官と 合唱隊と 鼓笛隊と サンバを踊る露出した美女がのろのろと行進している 俺はビルの窓掃除みたいに ゴンドラに乗って そんな蟻のような群れと旗が一斉に振られるのを目撃した ブラックもホワイトもイエローも交じり合って沿道を埋め尽くし 空は白い鳩の群れと カラフルな風船と 馬鹿でかい飛行船と 何匹ものヘリコプタが 俺が逮捕される瞬間を待っているようだった 逃げろ 頭の奥で作動する計算処理 危険ー棄権 警告するちかちかとしたランプに 支配される たまたま持っていた重いジッポーをミラーガラスに投げつけ割ってそこから内部に入る けれど待ちかねていた警官に取り押さえられそうになり 指を切断する 戦闘モードになるようチップを取替え また光速リビルドし 逃げる 今まで倒した敵の10000体の痕跡を残し階段を上る 屋上にはフェンスひとつなく 見渡すと遠くに小さくスラムが見えた パレードの歓声が遥か下の方で聞こえるが 空にフライトするすべてに監視され睨まれている 後ろから駆けつけた警官が いつの間にか増殖し発砲してくる 空からは小型爆弾の雨 かわしながら追い詰められてゆく 落ちれば俺でも終わりだ 万歳万歳 遥か下で声が重なる 歓声が一層うねる 警官が云う イキマスカイキマセンカ 報道局のヘリがカメラをまわす 皆が威風堂々を合唱している 色が、それだけはきれいだ 死にそうな魚の目がエアモニタに大きくうつされる これだけは移植できなかったんだよな これは俺の目だ 「なんてイキタクナイ目をしてんだろ」 俺はそういってクロスのポーズで 何もない空間すなわち屋上から地面に飛んだ 0.00001秒差で空を抱いた いくらサイボーグでも 引力の法則には勝てないね 俺は笑って壊れた 皆がいっせいに拍手しその音は300000ヘルツを超えたところでひとつ聞きたいんだけどさ、俺が何かしたか?
>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20090119_623_3270p
雨にうたれた
痕跡がのこっている
あなた、という呼び声が
そのアパートの
扉が
暗くかすんでいくように
聞こえるのと同じ
重さで
青くそめあげる
目を覆う
雨
*
あなた、と呼ばれた
そう呼ばれ、足跡をのこした
六月の影が
か細い
六月には
飛ばないはずの
鳥が描かれていた
骨格に
表情はない
晴れた日の空は
青い
*
なぜ
というひとことが
わたしたちの結末に
位置するとき
とおく、深い地方の
雨もまた
匂い立ちはじめる
女は
眠りながら
燃えていた
日の目をみても
覚めない目も
雨も
*
それが
混乱をまねくのなら
まねかれたものたちは
いま踊っているのか
目は雨に
青く、口語的に
それはうなだれている
季節の
変わり目に
まねかれたものたち
走る馬たちの群れが
氷のようだ
*
つま弾かれたものたちが
午後に立ちのぼる
影に暗く
空にまばらだった
眩しさに
息している
歴史のひとこまに
私たちはいた
間引かれればまた芽吹き
それは青く
立ちのぼっている
窓に
私たちの顔がみえた日
*
夕べみた
夢の陰影をとどめた
けさの一面は白く
ひらかれて
青い
草を刈り
焼きはらう
手のひらもまた白いのなら
海だけはまだ青い
坂道をくだり
いつか見た風景を
また見た
>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20090119_638_3272p
(恋のレクチャー。Lesson1。今も忘れられぬ人がいる貴方へ。私がすっきり忘れさせてあげましょう。まずは金曜日の夜にしんみりとしたクラブハウスへ行って。恋のレクチャー。Lesson2。お酒を飲んでも忘れられない貴方へ。私を貴方の大切な人だと思って。私と一緒にDJのかける音楽に身を委ねるの)
(君に似た甘い声だった)心の周波数を合わせても聞こえづらくなったパーソナリティーの声。(浄化する溜め息)君への想いが残業中にふと込み上げてきて。仕方なしに車をぶっ放して向かった、夜の繁華街。
(…恋…チャー…n3…忘れ…方へ…)やっぱり止めておこうか。(…クチ……それ…命の相…)「君」が此処から発信しているのが分かったよ。
一目合った瞬間から重苦しい世界を変えた、必然的な出会い。笑顔の「君」は死んでいた欲望を促して。軽く広くなった心に悲しみが滲んでも、もう涙は溢れないだろう。超満員のフロアーで互いの肉体を合わせるよ。二人の本能が、無意識が、理性が求め合っている。愛し合うことを。一夜限りの夢のような幸せ。いや、これからもずっと、お願い、離れたくないから傍にいて。
決して日付が変わらず明けることのない街。世界から置き去りにされるのを承知で。自発的に夜空を走り続ける金曜日。何がそんな衝動に走らせるのか? 何がそんなに恐ろしいのだろうか? 何から一体逃げているのだろうか? 両翼を開き始めた自問他答。
この状況に文句は無い。規則的な光を放つミラーボール。DJが刻むリズム、この絶え間なく繰り返される曲。この空間を満たす心地良い煙草とアルコールの匂い。時計の針は11時59分59秒から先へ進まない。シンデレラのような緊張感。胸に去来する不思議な喪失感。ウーハーの前を陣取る興奮した観客達。熱気を掻き回すだけの扇風機。
苦しい感情(耐えて)、命(耐えて)、命(耐えて)、命(耐えて)。スポットライトのカラフルさ(耐えて)、命(耐えて)、命(耐えて)、命(耐えて)。人々の熱気(耐えて)、命(耐えて)、命(耐えて)、命(耐えて)。噴き出そうな性欲(耐えて)、命(耐えて)、命(耐えて)、命(耐えて)。
(ようやく思い出した)愛しい君と最後に逢ったのも金曜日の夜。心臓の鼓動がその時そっくりで。(胸がずきりと痛んだ)ふと踊りを止めて、あらゆる事物から距離を置いた。そして浮かんできた、かけがえのない想い。
(『永遠になるにはどうしたらいいと思う?』)そうして君は死んでしまったね。(美しい記憶の奥に貴方の恋人が展示されてる)それが最高のプレゼントなのさ。
陰鬱な思考が次第に光り放ち始めた時、それは「君」からの愛のアンサーで。「君」の心を解放した爽やかなダンス。失うことが怖い心が逃げ場を探しても、きっと何処にもないだろう。超満員のフロアーで互いの肉体を合わせるよ。二人の本能が、無意識が、理性が求め合っている。愛し合うことを。一夜限りの夢のような幸せ。いや、これからもずっと、お願い、離れたくないから傍にいて。
DJは闇の番人。と同時にもう一人の自分、影。人は誰でも胸の中にDJを置いていて。曲をかけて魂の降りる場所まで導く。其処は彼の支配する世界。自己保存機能が働いている。平安に満ちている。しかし森が生い茂り、陽は全く当たらない。
「君」の心の声の反乱。響く君の断末魔の叫び声。森の伐採。砂漠と化した世界で彷徨う痩せ衰えた心。振り返ると見える平安の蜃気楼。向き直ると現れた「君」のオアシス。駆け出すと融け始めた時間の流れ、「其処」は深夜の土曜日のクラブハウス。
超満員のフロアーで互いの肉体を合わせるよ。二人の本能が、無意識が、理性が求め合っている。愛し合うことを。一夜限りの夢のような幸せ。いや、これからもずっと、お願い、離れたくないから傍にいて。
(恋のレクチャー。Lessonラスト2。やっぱり忘れられぬ人がいる貴方へ。私がずっと心の声を聴いていてあげるから。だから金曜日の夜を抜け出す為に私を抱いて。恋のレクチャー。Lessonラスト。深い眠りに就く貴方へ。今度も私と同じ世界に生まれたらまた此処に来て。私が貴方の悲しみを全て受け止めるから)
陰鬱な思考が次第に光り放ち始めた時、それは「君」からの愛のアンサーで。「君」の心を解放した爽やかなダンス。失うことが怖い心が逃げ場を探しても、きっと何処にもないだろう。超満員のフロアーで互いの肉体を合わせるよ。二人の本能が、無意識が、理性が求め合っている。愛し合うことを。一夜限りの夢のような幸せ。いや、これからもずっと、お願い、離れたくないから、
(傍にいて)
一目合った瞬間から重苦しい世界を変えた、必然的な出会い。笑顔の「君」は死んでいた欲望を促して。軽く広くなった心に君が滲んでも、もう涙は溢れないだろう。超満員のフロアーで互いの肉体を合わせるよ。二人の本能が、無意識が、理性が求め合っている。愛し合うことを。一夜限りの夢のような幸せ。いや、これからもずっと、お願い、離れたくないから傍にいて。
m-flo「come again」へのオマージュ
>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20090117_566_3267p
いつも通る二階の廊下が、今日は北北東に少しだけずれていたのは知っ
ていました。それは少女の透明な青草をまとった出血が始まった頃、丁度
冬の入道雲がふくふくと戯けた恋をしていた時のことでした。
白虹が滲む夜、庭先には南天の実の美しい色がありまして、紫陽花の葉
がひとつまたひとつと濡れ縁の周りに落ち崩れています。少女は五つほど
歳の離れた姉の胸当てをひそやかに身につけて、夕暮れの水の色に染まっ
た、少女の吐息の影がゆるやかに波打っている日記をひろげました。…あ
れほど待ち続けた内緒事のはずなのに…今は記憶の底が抜け遠くの綿景色
に埋もれ、ただちりんという音色が闇に入り込み聞こえていただけなので
した。
やがて、賀佐の空は激しく赤に染まりました。二階の廊下は斜めに真っ
ぷたつに割れていきます。ここが戦場だということをもうすっかり忘れて
いました。飛び散った胃の小間切れは開いた日記の頁と一緒に揺れていま
した。
>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20090115_545_3264p
>シンジロウさんはじめまして。
>かやさんはじめまして。
>右肩良久さんおはようございます。
>かやさんおはようございます。
>コントラさんこんばんは。
高架から見える自由の女神に
砂粒のような願いをこめた
今日
君 下着姿の女が30分に1回のサービス
暗転
柴咲コウは歌がうまい
雪が降りだしそうな冬の朝
鏡に映る背中
温水器が壊れてお湯が出ない
ホテルニューヨーク
コピー用紙が肌をなめあうような
つるつるの恋愛小説からは
経血のにおいがしない
お寺には必ず仏舎利、すなわちお釈迦さまの骨が埋められているように、世界に無数にある自由の女神のレプリカにも、なにかしらの縁がある。だから、お台場の自由の女神や、赤羽の自由の女神のことをそんなに馬鹿にしちゃいけない。高架を走る電車から見える、あの自由の女神もちゃんとした女神さまなのだと、成長著しいBRICsの国々のガイドブックには書いてあるらしい。テイラーが海岸でみつけた女神の生首と全部、ぜんぶつながっているのだ。
片手で数えられないくらい前の冬、翌日から雪が降った夜。ホテルニューヨークの部屋ではお湯が出なかった。お腹の精液をティッシュでぬぐって、水で湿らせたタオルで拭けば、もちろんのこと「つめたい」。そこらへんじゅうに張ってある鏡みたいに、意味を問いたいほどに、つめたかった。ぼんやりして、そのまま眠って、起きてブラのホックを留めていたわたしに、これでおしまいだと、勝手に男は告げた。ホックが爪と指の間に入って、痛かった。沈黙が続く部屋の中、「ばか」と言い返してみた。「ばかって言う奴がばか」なんてことは、だれが言い出したのだろう、と考えた。
ここには 自由があるらしい
自由すぎないかな ホテルニューヨーク
ビルの頂上に 女神が立っている
真横を避け 男の半歩うしろを歩く帰路
駅の近くで歌が聞こえた
(柴咲コウ、歌うまいな)
男が言った
(柴咲コウ、歌うまいな)
わたしは返事をしなかった
(柴咲コウ、歌うまいな)
彼のことはすっかり忘れた今も
柴咲コウの歌は 時折口ずさむ
すぐには電車に乗れなかった。落ち着きたいがための消費を求め、駅ビルの書店で恋愛小説を買った。電車に乗ってめくる。乗換駅。月経が始まった感触を覚え、手当てをしたあとは動けず、ホームのベンチで文庫本を抱えたまま、何本も何本もの電車を見送って、泣いた。小説がつまらなすぎて、下腹部が痛くて、泣いた。12本目の電車に乗るとき、ゴミ箱に文庫とティッシュを捨てた、祝日午前11時。吐く息が、鼠色に、変わった。
桜咲く夜に美しく見えた川が、落葉を満たしてドブ川に戻る。美しかった精神の交わりが粘膜の接合としてしか捉えられなくなる。恍惚とした瞬間を思い出せばうすら寒い。君の言葉と行動とわたしの生活と意識、その分離、乖離、思い出す遠心力に、錯綜。混濁の谷間で出会った君にとって、わたしは轍のような存在。それならば、プラスチックの人形になりたい。猫のあたたかさもシリコンの柔らかさも持ち得ないわたしを、君、どうか本棚の横に置いていて。いつしかほこりが積もるからだ。つるつると化学のにおいのする手のひら。西日が当たり、変色する。
「プラスチックにしてください」
高架から見える自由の女神に
砂粒のような願いをこめた
今日
経血のにおいがしない
つるつるの恋愛小説は
コピー用紙が肌をなめあうようだ
ホテルニューヨーク
温水器が壊れてお湯が出ない
鏡に映る背中
柴咲コウは歌がうまいと言った
雪の降りそうな冬
君 下着姿の彼女と約束するアフター
不実を嘘であがなう
わたしも嘘で応じる
高架から見える うすよごれた女神に
祈りを捧げてみた
車窓
今日もまた、
流動する風景。
>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20081206_071_3199p
>経血のにおいがしない
>つるつるの恋愛小説は
>コピー用紙が肌をなめあうようだ
>桜咲く夜に美しく見えた川が、落葉を満たしてドブ川に戻る。
>美しかった精神の交わりが粘膜の接合としてしか捉えられなくなる。
>プラスチックにして下さい
>右肩さん
>無防備なまでにありきたりな
>koeさん
>経血のにおいのしないつるつるの恋愛小説も柴咲コウの歌も本人が好きなのか嫌いなのか判然としない。
>人間の泥臭い生理的な部分が逆に本人を惨めにしてしまう
>彼女はそうしないと生きていけない。彼女の祈りはそんな自分のかすかな生理を救うひとつの手段なのかもしれない。
>ミドリさん
>どうも作品全体の印象としてはダラシナク書かれてあるような感じを受け
>端的にいうとテーマ(安直すぎる)をもっと深めるべきだし
>世界観について、もっと客観的に見つめるべきだと思いますね
>彼のことはすっかり忘れた今も
>柴咲コウの歌は 時折口ずさむ
>桜咲く夜に美しく見えた川が、落葉を満たしてドブ川に戻る。
>君、どうか本棚の横に置いていて。いつしかほこりが積もるからだ。
>シンジロウさん
>デリヘル嬢が、客と客以上の関係になってしまいそうな所で、フられてしまったのか
>はるらんさん
>>彼のことはすっかり忘れた今も
>>柴咲コウの歌は 時折口ずさむ
>ここは書かなくてもよかった気がする。
>そこまで書くと何か安っぽく感じてしまうから。
>主人公は誰かと別れるたびにたぶん、柴崎コウの歌を思い出すのかな?
>そしてもしかしたら、柴崎コウの歌だけじゃなくて、
>誰かと別れる度に、その人が好きだった歌を思い出して、
>「別れ歌」が増えてゆくのかもしれませんね。
>ここには 自由があるらしい
>自由すぎないかな ホテルニューヨーク
>ビルの頂上に 女神が立っている
>はなびさん
>草野さん
>桜咲く夜に美しく見えた川が
>君の言葉と行動とわたしの生活と意識、その分離、乖離、思い出す遠心力に、錯綜。
>今日もまた、
>流動する風景。
>雨の実さん
>寒月さん
>平川さん
さめてしまう眠りのなかに
鉄のスプーンをさし入れ
夢のとろみをまわす
まだ温かい
液状のわたしはどこへでも流れ
私をすくう匙加減は
夢のなかでも 夢ではない
夜という浅瀬を破り
小舟たちが眠りへと漕ぎだす
数人の仮死と袖が触れあう
夢をみたと言えば許される人の
口を摘みにやってきたという
青く錆びたスプーンを
口元に強く押しつけられて
寝苦しい夜のふちに手を掛け
眠りを傾ける
唇を寄せて
冷めた夢を啜る
水っぽい私の味がして
暗闇でじわりと
喉が鳴る
華奢な小舟の腹を噛むと
甘い血が舌を走った
まだ温かい
わたしが手足に運ばれ
夜半
満ちるように
ふいに上体を起こす
>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20081210_186_3204p
>いずれはさめる眠りのなかに
>鉄のスプーンをさし入れ
>夢のとろみをまわす
>まだ温かい
>わたしが手足に運ばれ
>夜半
>満ちるように
>ふいに上体を起こす
>人類学、言語学、哲学、文学理論、心理学において(略)解釈的アプローチが急増している。
>寝苦しい夜のふちに手を掛け
>水っぽい私の味がして
>あっさりと「良い作品である」と言われてしまう内部エネルギーの低さが弱点と言えば弱点でしょう。
>世界やリアルに接続する回路に欠ける
>詩の言語はそこに迫る一手段なのですよ、りすさん。
>水っぽい私の味がして
>満ちるように
>だんだん言葉が痩せていってる感じ
>書くからにはそれを認めないでいられる人ではない物事に半肯定的な目線を捨てられないひとなのだろうかと勝手に思いました。
>真にセンチメンタルだったとしたら、
[??]
小さな墓場から孵ったばかりの煙が螺旋の道を這い昇り鼻腔に浸っている。反り返った皺は板の上で踊りだし奇怪なリズムを風に乗せると頭の中には大きな巣窟が細く蔦を絡ませ始めていた。空は酷く青く海は嘲るように真似た色を波間に漂わせると、舞の一文字を刻みながら燃え屑は吸い込まれるように空に貼り付いていく。白かった紙はいつのまにか黒く塗りたくられた手を振っていた。
[??]
餓鬼の頃は光と肩を並べて歩く銀世界に憧憬を抱いたものだった。映し出された姿をただ映すだけの瞳には白い雲はどこまでも白かったのだ。伸びることを風と肩を並べ何処かへと旅立っていった。
ボトルの中に浮かぶ小さな帆船が転覆し苦しそうにもがいている。二人用の船室の中で一人、濡れない瞳の瞼を引き落として無駄だと知りながら頭の中に羊を走らせた。一匹、二匹、三四五…薄汚れた毛を抱えた羊が囲いの中で犇めき合い互いに触れた毛は心持ち白く見えた。
蛍光色の丸い線をあてはめた小窓は瞼を優しく抱きしめたけれど、柵を飛び越える羊を掻き消した。頭を沈めた船をそのままに、錆びついたドアノブに手をのせた。
[??]
「戦争もの」特集では陽気な笑顔を振り撒く若い男性が司会を務めていた。戦車、戦闘機、「戦」の文字が連鎖的に紡がれており退職を間近に控えた大久保さんが隣で細々と何かを呟いたが明るい声に揉み潰された。微かに吐き出される息は天井にぶつかる前に渦巻くファンに輪切りにされた。
B-29が薄い板の上を泳いでいる。
遥か頭上、高く高い空から見下ろした人は酷く滑稽に見えた。
[??]
久しぶりの陸地はあまり歓迎してはくれなかった。ふらつく足を宥め、先日の雨の残骸を強く踏みつけながら日の沈む方角へと歩み寄り大久保さんとの別れを丁寧な言葉で終わらせる。去り際に交わした手は柔らかいものだった。
あれから暫く足元は地に拒まれたままで埃にまみれた部屋の中、日に焼けた畳の匂いは体に染み込んでくる。焼け爛れた壁紙に指先を這わせると黒々しい影がしつこく付き纏った。
数日後部屋に一通の手紙が届いた
「本日…地方は……となるでしょう」
壊れかけのラジオが細々と空の模様を呟いていた。
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