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コラム

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批評の場というもの(副題:詩のサイトだというのに特撮の話しかしない)

 Canopus(角田寿星)

実相寺昭雄(じつそうじ・あきお)さんという映像監督がいました。いました、というのは、ついこないだ胃癌で亡くなっちゃったからです。2006年、69歳でした。
映画も昔はたくさん、晩年ではちょぼちょぼ撮ってて、昔は映画の賞も貰った人です。でもいちばん後世に残った仕事は、ウルトラマンシリーズの数々のエピソードでしょう。
この人、ウルトラのスタッフでは超古株でありながら、「巨匠」とか「御大」とかの言葉が、これほど似合わない人もそういなかった。「異才」とか「奇才」とか「変りもん」とか「アホ」とか「老害」とか、特撮ファンはそりゃもういろんな愛称で実相寺さんを呼んだものでした。

とにかく実相寺さんの監督したウルトラ、問題作が多かった。宇宙開発の被害者をウルトラマンがただの怪獣として処理する『故郷は地球(ジャミラ)』、セブンと星人が卓袱台を囲んで胡座をかいて対峙し、夕陽のなかの美しい戦闘シーンとストップモーションを使った実験的映像の『狙われた街(メトロン星人)』、そうそう、セブンの『遊星より愛をこめて(スペル星人)』は、諸事情により、二度と日の目をみることのない欠番となってしまいました。ぼくは観てないんですが確か、地球の放った核爆弾に被曝したケロイドだらけの宇宙人が、復讐のため地球を襲う話、だったと思います…
実はですね、この人、「帰ってきたウルトラマン」と「ウルトラマンタロウ」でもメガホンを取ってるんですが、んで撮り終ったらしんですが…「らしい」というのは…どっちもNGになっちゃって、放映されてないんです。いったいどんなヤバい話を撮ったんでしょう。興味があります。
さらに実相寺さんは、逆光でのショットや斜め下からのアングルを多用するなど、少ない予算で効果的な映像を撮るのに腐心されてた様子で、「実相寺マジック」という用語も持ってます。良きにつけ悪しきにつけ、いろいろと逸話を提供した人でした。

実相寺さん最後のウルトラの仕事はわりと最近です。2005年、亡くなる前年の「ウルトラマンマックス」でした。ここで第22話『胡蝶の夢(魔デウス)』と第24話『狙われない街(メトロン星人)』の監督をしています。
この「ウルトラマンマックス」は、入れ替わり立ち替わりいろんな監督さんがメガホンを取ってて、何でもありの楽しい作品でした。
んで、この『胡蝶の夢』が、とんでもない出来だった。

『荘子』の「胡蝶の夢」をモチーフにしてる時点で、すでにお子様向きではないんですが…
マックスの脚本家(なんと石橋蓮司さん!)が不思議な夢をみるとこから始まります。蓮司がマックスの主人公カイトになって、女と出会う。女はこれから怪獣を創るという。蓮司はその夢をそのまま脚本に書いて、そしたら現実の世界でも女に会って、夢だか現実だか分らんとこで怪獣の魔デウス登場。そいつときたら、ただの黒い球のカタマリです。
ストーリーはなおもエスカレート。魔デウスと出くわした蓮司のピンチに、今度はカイトが蓮司になって、脚本の続きを書き始めます。カイトの脚本のストーリーどおりに、石橋蓮司、ウルトラマンマックスに変身!!(唖然)。箱庭みたいなビルのちゃちなセットで、撮影ライトの照明の下、闘う蓮司マックスと魔デウス。後ろに流れるのが「ちょうちょ、ちょうちょ、なのはにとまれぇ〜♪」と、思いきり能天気な唱歌のしらべ…

ええと、観たまんま書きました。こういうストーリーなんです、ええ、そうなんです。
今はネットがありますから、この作品についてすぐに、ファンの間で大変な話題になりましたね。まさに賛否両論でした。
といっても、「賛」が2割、「否」が8割、といったとこでしょうか。「ストーリーがワケ分らん」から、「蓮司が怖くて子どもが泣いた」、「老害のやりたい放題」、「実相寺にはもうウルトラ撮らせるな」などなど…
一方ではツボにハマった方々の大賛辞、なんてのもありまして、「いやー怖くてよかった」なんて言ってるんですよね。興味のある方は、「ウルトラマンマックス」「胡蝶の夢」で検索すると、いろんな人がブログとかで書き残してるので、覗いてみるといいでしょう。

こんな与太話を延々と書き連ねてきたのには理由がありまして、これはひとつの健全な批評の場だったんじゃなかろうか、と思ったんですね。
まあネットですから、匿名または半匿名なんですが、不特定多数の人々の、歯に衣着せぬ正直な感想である、というのがひとつ。
それと、これらのやり取りが、比較的メジャーな掲示板という、人目に止まりやすいオープンな場で行われた、というのがひとつ。
さらに。みんなきちんと全部観て、それぞれがそれなりに各シーンを脳裏に焼き付けてからモノを言ってるんですね。これは意外と重要なことだと思います。
あともうひとつ。約一年後に実相寺さんが亡くなった時、ぼくを含む大部分のファンが泣き叫びました。みんなウルトラと実相寺さんを愛していたんです。老害だとか実相寺終わったナ、とか書いてたヤツも、その死を悼みました。

匿名というのは便利なもので、悪くいえば好き放題、よくいえば自由闊達な意見が交換されます。やはり記名での批評というのは、ある意味での責任を生じます(いや、匿名でだってきちんと責任はあるのですが)。作者に面と向かって「こんなの人前に出すな」と敢えて言うことは、相当の覚悟と勇気を要します。そんな覚悟のある方に、人知れず拍手。このコラムでは余談になりますが(笑)、ここ『文学極道』には、そんな方が複数存在します。

実相寺さん最後のウルトラ作品『狙われない街』は、概ね好評でした。ウルトラセブンにアイ・スラッガーで真っ二つにされたメトロン星人。近所の子どもに保護されて、真っ二つの身体を凧糸で縫い合わせて修繕。看病の甲斐あってメトロン甦り、そして四十年後、かつての子どもとメトロンとの再会…という筋書きです。
皮相的なメッセージや楽屋落ち的解釈が気になるものの、伝説の怪獣倉庫(怪獣の着ぐるみや特撮メカを保管してる円谷の倉庫です)が舞台だったり、カイトとメトロンの卓袱台対峙があったり、夕陽の「闘わない」対決があったりと、ノスタルジックなフレーバーに胸がキュンとしました。ちなみにメトロン星人役は寺田農さん。
ちなみに、ネットでの評価は「やればできるじゃねえか」が多数。『胡蝶の夢』肯定派は、「悪かないけど物足りない」だったりして、やはり様々ですね。

実相寺さんの絶作は「シルバー假(か)面」だったんですが、ほとんど話題にならなかったですね。まあ出来は推して知るべしのような気がするんですが、文句はきちんと観てから言おうと思います。

それから。「ウルトラマンマックス」で、バリバリの現役映画監督がウルトラデビューを果たしました。ホラーや極道ものなど、多作で知られる三池崇史さんです。アメリカの映画界でも有名で、『TIME』にも度々紹介されてるとか。今度ヤッターマン撮るんですよね。
マックスでは、シリアスな第15話『第三番惑星の奇跡(怪獣イフ)』と、徹底したスラップスティックの第16話『わたしはだあれ?(ミケ、タマ、クロ)』を担当。三池さん本人は「わー、ウルトラ撮っちゃったよー、いやあちびったちびった」なんてこと言ってたらしいんですが…
ちびったのは視聴者だよ。特に『第三番惑星の奇跡』。
ストーリーは単純ながら、ド迫力の破壊シーンと美しい映像描写とが、これでもか、これでもかという具合に押し寄せてくる。最後のシーン、盲目の少女が演奏するフルートに呼応して、イフが巨大な楽器に姿を変え、きらきらと光りながら夜空を昇ってくとこなんざ、今でも脳裏に焼き付いてますよ。

今までのウルトラが素人の遊びに見えてしまうくらいの、度肝を抜かれるような出来でした。「特撮とはこうあるべきだ」とか、そういう狭い括りで物事を見てちゃいけないんだよな、と改めて確認させられましたね、ええ。


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