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ケムリ月間選評

Posted By 文学極道スタッフ On 2011-11-24 (木) @ 02:39 In 未分類 | Comments Disabled

ケムリによる今月の採点結果。
優良は「この作品書いたのが俺ならいいのに!」と真剣に思うレベル、佳作は「良い出来」と純粋に思える作品でまとめてあります。

優良推挙

26.5647 : 亡国  黒沢 ('11/10/26 22:09:42)
URI: [1] bungoku.jp/ebbs/20111026_154_5647p
自分の感性を信じきった創作。いいっすね、こういうの。コーリャさんの作品と合わせて、いかに自分が鈍りきってるかを教えられる月間でした。
言葉の連ね合わせが、本当にギリギリ。連続の綱渡り。ここまで踏み込めたことに敬意を表して、優良推挙。
「イメージの飛躍」を狙う書き手が最近減少傾向にありますが、やれる人はどんどんやってみたらいい。
これは、非常にリスキーな手法で、はずしたら最後何も残りません。でも、日和ってちゃダメですよね。

12.5653 : 怪物  コーリャ ('11/10/29 14:43:51)
URI: [2] bungoku.jp/ebbs/20111029_232_5653p
モノスゲー好みです、これ。歯切れのいいショートセンテンスの積み重ねに、心地よい飛躍。
文章の翻りがもたらす快感。頭を振りたくなるような、リズミカルな跳ね回り。酒が進む作品。どうでもいいですが、ぼくは今飲みながら書いてます。

「そんな時だって私はなにかを待ちながら生きていた。乳色の海のように浮かぶ地平線と、降りしきる仮定の隕石群の原を、はんぶんこに眺めながら。私たちは待っていたのだった。車内は夕暮れを運んだ。戯れに唇を寄せた車窓は湿った紋章を浮かべた。私たちは音を微かに立てるくるみ割り人形みたいな気分だった。果実の匂いがした。バスはトンネルに入る。出し抜けに闇を右耳から流し込まれる。バスで溺れる。こんなところでは決して眠れなかった。トンネルを抜ける。人類を皆殺しにしようと、彼は誘う。銀紙を延べたような町々。陸橋を超えて。光はどんどん捨てられて、またトンネルに入って、出たときに、私はやっと、ひとごろし。と発音した。バスは次の王国に向かった。」

ここまで一呼吸。この速度感がたまらない。文章のリーダビリティと美しい飛躍が噛み合った珠玉の一作。読むことの快感に気づかせてくれる。
もし、自分の創作が認められなくて苦しんでる人がいたら、この人の文章のリズムをとりあえずパクってみるってのがいいと思います。
そうすれば、少なくとも「読まれる」作品にはなるでしょう。もし、敢えて欠点をあげつらうとすれば、描写の「深さ」の不足。記号性の向こう側へ過渡される描写が一つもないこと。
逆に言えば、リズムと文体がそれを補って成立してると言ってもいい。

佳作推挙

5652 : 花の名前をおぼえようとする/花の名前をおぼえられない  角田寿星 '11/10/28 23:07:14  [Mail][3] bungoku.jp/ebbs/bbs.cgi?pick=5652#20111028_207_5652p

いいですね。穏やかな気持ちになりました。
受け入れることと諦めることの中間。よく節制が利いている。この題材をここまで抑え込んで書いた、その書き手の人生が伝わってくる。
決して、諦めてはいない。かといって、完全な受け容れがあるわけでもない。そこに宙吊りになったまま生きること。それを選びとること。
作品としてのレベルの高さを放棄しても、選んだスタイルがあるんだろうと思う。

1.5640 : as a carrier  岩尾忍 ('11/10/24 22:26:19)
URI: [4] bungoku.jp/ebbs/20111024_103_5640p

「知りうる限り、部屋には通気口が一つあり、一つしかない。それは彼の頭上、天井の一角にあり、人の顔ほどのパイプの断面だ。その円周には細く刻まれた白い紙が貼られ、びらびらと靡いている。常に靡いている。外へと。」
ここです。この一文が、作品を高みに引き上げた。この明晰なイメージが、この作品の位階を一気に高めた。
総体としてのレベルは特筆すべきものでは決してないですが、このエッジ一つが作品を昇華させた。「描写」の威力を感じさせる作品。いいですね。
この書き手には伸びしろを感じます。自分のイメージの細部に良く目が届いてる。こういう人は伸びます。真摯な創作。

5610 : 踊りかたを知らない  泉ムジ ('11/10/13 02:53:52)
URI: [5] bungoku.jp/ebbs/20111013_776_5610p
テクニカル。テクニカル故の弱さもありつつも、様々な手法に挑み続ける書き手の姿勢に。

13.5643 : セクシー  宮下倉庫 ('11/10/25 22:11:23)
URI: [6] bungoku.jp/ebbs/20111025_125_5643p
過渡期のちぐはぐさ。華やかな宮下語彙と、新たなスタイルの親和がとれていない。
しかし、なんというかこういうレベルの高い書き手のちぐはぐさっていうのは、原酒のウィスキーを舐めたみたいな楽しさがあります。
この先どんな風にこの書き手は熟成されていくのか。ぼくの宮下さんのイメージって、酒で言うとローズバンクなんですよ。華やかなシングルモルト。ところが、この作品はスコッチの華やかさとアクアヴィットのような起伏の無いボディが、交じり合わないままで詰まってる。期待感がありますね。

5616 : 拝島界隈  鈴屋 ('11/10/17 00:21:35 *2)
URI: [7] bungoku.jp/ebbs/20111017_851_5616p
端正だが、キックが弱い。一定のレベル以上にあることは明快で、安心感のままに読み進められる作品だが、とんがったところもない。長年キッチリと書くことに意識を張り巡らせて来た書き手の辿り着く袋小路にハマりかけてる印象。
とはいえ、基本的な技術は高い。

45.5628 : Detritus  yuko ('11/10/21 14:33:28 *1)  [Mail]
URI: [8] bungoku.jp/ebbs/20111021_969_5628p
繋がれていくイメージは記号的な弱みがありつつも面白く、語の翻りの快感もある。だが、飛躍の距離が、あるいはイメージ同士の親和性が不足している。
語彙の一つ一つは面白いが、それぞれの間の繋がりがどうにもピッタリ来ない。
書き手の身体性というか、作者性というか、そういったものと手法が噛み合っていない印象。あと、何か一つで飛躍的に伸びそうな気がする。あと一つの何かを探している途中なのかもしれない。

5578 : ちがうみち  泉ムジ ('11/10/01 18:15:03)
URI: [9] bungoku.jp/ebbs/20111001_427_5578p
この書き手は、ホントなんでも出来るんだな、と思わされる。

5596 : 犬  debaser ('11/10/06 19:09:30 *3)
URI: [10] bungoku.jp/ebbs/20111006_624_5596p
笑った。それ以上の評価は必要ないだろう。

48.5633 : 十月  ズー ('11/10/22 12:52:59)  [Mail]
URI: [11] bungoku.jp/ebbs/20111022_007_5633p
端正で、語彙とイメージが非常に好み。ただ、やはり作りこみの弱さも伴っている気がする。
どうでもいい話かもしれないけれど、この書き手は携帯電話で書いているということで、「それすごくね?」と俺は思っちゃうんだけど実はそうでもないんだろうか。


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