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7月分月間優良作品・次点佳作発表

2009-08-22 (土) 13:26 by 文学極道スタッフ

7月分月間優良作品・次点佳作発表になりました。

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2009年6月選考雑感

2009-08-20 (木) 23:50 by a-hirakawa

今月も勉強になりました。
ありがとうございました。

今月は、

3564 : たんぽぽ咲きみだれる野っぱらで、俺たちは  Canopus(角田寿星) ('09/06/02 22:55:29)

3614 : 真夜中の魚  mei ('09/06/29 01:23:16)

3584 : un radeau automatique et les oiseaux aux pommes  はなび ('09/06/11 09:43:34 *3)

3604 : (無題)  石黒 ('09/06/24 00:43:05)

3576 : 夢日記  いかいか ('09/06/08 00:46:08)

3616 : No Title  浅井 康浩 ('09/06/29 17:06:38)

3601 : 夜景/テイク2  蛾兆ボルカ ('09/06/22 22:41:10)

3581 : 手の鳴るほうへ  ひろかわ文緒 ('09/06/10 04:14:07)

3612 : ようすいの丘  mei ('09/06/27 20:43:38)

以上、9作品が月間優良作品に選出されました。

3564 : たんぽぽ咲きみだれる野っぱらで、俺たちは  Canopus(角田寿星) ('09/06/02 22:55:29)
「ちきしょう/明日っから仕事ができねえぞ」が強い、けれど、レッサーからの指摘のようにもうすこし、あともうすこしだけ別の角度からの生への叫びであったなら、なお良かったとも思う、という意見がありました。野卑と繊細さとが同居する魅力がある、作者は昭和の匂いのするものを書かせると味が出る、地味だけれども、この路線は急速に寂れつつあるので期待してしまう、という意見もありました。作者の悪い面が出てしまっているように思える、最後にいくにつれてトーンダウンしていて、重要な場面だけに、それは目立ってしまっているし、良質なフレーズが乱立しているため、互いに埋もれてしまい、抜きん出る部位が僅かになっている、好きな作品だけにもう少し期待してしまう、という意見もありました。

3614 : 真夜中の魚  mei ('09/06/29 01:23:16)
惜しい、無駄に長く、且つ、跳びきれていない、ボリュームの問題ではなく、酔い過ぎであり、テキスト・コントロール能力が足りていない、課題ばかりが先に目についてくる、書かれている世界は好みなので勿体無い、という意見がありました。導入が良い、もうひとつの作品「ようすいの丘」よりは格段に良いが、問題なのはこちらのほうが2年古い作品だということ、もうすこし様子をみてみたい、「運命」「神様」はという言葉は人を選ぶ言葉だとおもう(それだけ使いこなすのが難しい)ので、それ自体を重要なキーワードにするのでなければ軽々しく使わないほうがいい、という意見もありました。一連、二連、最終連とても丁寧な美がある、
 「夢というコトバが好きです
  未来にはないものですか?
  私たちはふたりの船でした

 ながされる あいされる うまれゆく いきている
 あいしてる――)
この持っていき方が個人的には早まっているように感じる、もっと書き方があるというか、狙った格言をつけすぎというか、書きすぎという感覚だった、という意見もありました。中盤だれて冗漫だけれども美がある、という意見もありました。僅かな文章を他の作品に一つだけ付けて、すぐの投稿だったので、もっと合評を大切にして欲しい、という意見もありました。

3584 : un radeau automatique et les oiseaux aux pommes  はなび ('09/06/11 09:43:34 *3)
 しほんけいざいのうた 
という余計を取ったことで良質さを放ち始めた、
 しほんけいざいのうた
がついたままでしたら、落選に強く推した、という意見がありました。幅を狭めないあり方が空気感を上げていて、異文化との反応性を醸している、という意見もありました。作者は、ふしぎな触感であり、割れる評価を確かにしている、投稿者の間にも一石を投じる書き手という感が残った、という意見もありました。

3604 : (無題)  石黒 ('09/06/24 00:43:05)
うまい具合に乾いてはいるけれども魅力には乏しい、新鮮味は感じられない、情緒的な臭みが無いところは佳かった、本気出して書いていない感覚もある、という意見がありました。こじんまりとまとまっていて古いけれども連鎖と回収が見事であり、魚という生命の初潮に帰結している部位と中間の拍動の表わし方は血が通っている、という意見もありました。

3576 : 夢日記  いかいか ('09/06/08 00:46:08)
夢の感触を模倣している作品であることがわかることから立ち上がってくる手触りが実に密やかで剥き出して来る、という意見がありました。もう少し期待してしまった、前半に比べて後半の吸引力が薄いように感じる、という意見もありました。

3616 : No Title  浅井 康浩 ('09/06/29 17:06:38)
このままでも十分、良質だと思うけれども最終連はなくても良かったように思える、もう少しまとめなくて手渡していっても良かったのでは、という意見がありました。作者の世界観で、しかし静かに氾濫を中で起こしている魅力が性的なニュアンスを伴い、先に行けているように感じる、という意見もありました。いつも丁寧に踊られている、文体も美しい、久々に良い作品だったと感じた、欠損もあるけれども再読する価値がある、という意見もありました。もともと美しく閉じている作者の表現世界のなかで、異質である七連目が成功しているのか、と問われれば成功していない、と応えるしかないように思える、自己と他者を認識し、一種の病みとともに境界が溶け、ふたたび他者を確認するという構成には砂時計のフォルムのような美しさを感じるものの、やはり七連目の意図がわからないし、わからなくてよいという気持ちにもなれない、という意見もありました。

3601 : 夜景/テイク2  蛾兆ボルカ ('09/06/22 22:41:10)
最近、読んだ作品の中で一番印象に残った、哀愁をそのまま握らされた気がした、という意見がありました。自己と他者との距離が秀逸な作品なのではないか、という意見もありました。
 やけいに綺麗だなって
など、あざとさが気になりもしたけれども滑るためには必要な技巧かもしれない、それが、その変な、あまり上手くいっていない技巧的ものがダサさを増加させ、DT臭をいつまでも残す男性像を描けているのだとすると、浄化していく感だけが残らないでもない、という意見もありました。本能や欲望を打ち消す生活への感情、燃やすことはないということは生活を蝕まない自身の尊厳の確立であり尊敬の念の確固でもある、夜を犯さない現れでもある、その位置が微妙な単語を位置を描写により、奇妙なリアルに仕立てあげてある、という意見もありました。美しさには欠けるが、詩になっている、波のある作者だけれども、この傾向のものの方が読み手に歓迎されるように思える、という意見もありました。作者の作品を初めて読んだ、後、何作品か読んでみたい、という意見もありました。

3581 : 手の鳴るほうへ  ひろかわ文緒 ('09/06/10 04:14:07)
丁寧だけれども放り込んでいるところが膨らみを持たない、もう少しつながりの中を意識しても良いのかな、と思う、という意見がありました。導入が秀逸、文章が実に巧い、父と母のエピソードの後、「生け贄を用意しろー/誰でもいい、誰でもいいやつを、連れてくるんだ、早く」に至るまでに、アメンボの連だけでなくもう数連、「私」についての描写があってもいいかなと思った、現時点でもテキストとしては充分に長いが、最終連までの傾斜具合がいささか急に感じた、という意見もありました。

3612 : ようすいの丘  mei ('09/06/27 20:43:38)
普遍的なテーマだけれども、これはずいぶんと書き込みすぎている、ボリュームはこの半分でいい、短いセンテンスで言語化と非言語化を試み、同じくらいの風景を想起させられる大胆な技量が欲しい、あとは言葉そのもののチョイス、作者なりの懸命な模索は感じられるものの、全体をとおして熟語に頼りすぎている感がある、特に「処女」や「神聖」という言葉はあからさますぎ、詩全体を一気に陳腐にしていると感じる、という意見がありました。かなりとっちらかってはいるけれども技巧がほぼゼロでこの世界観というところに一票入れたい、陳腐であるからこその魅力がある、という意見もありました。

さて、次点佳作作品について触れていこうと思います。

3591 : 川は流れた  鈴屋 ('09/06/15 00:04:19)
固有名は不要のように思われる、違和感を感じた、けれども全体としては中心から逃れながら中心の求心力の幻想を垣間見せさせる美しさがある、という意見がありました。主題がよい、「流れ/流した」のリフレインが効果を出している、しかし、この詩のなかで「戦争」という言葉は空間づくりのための一アイテムであり、言葉の意味そのものとしては死んでいる、それを良しとするか否かは同時に読み手の感覚だろうが、すくなくとも私にはひとつの大きな単語が殺されているという印象が残りつづけた、また冒頭の運びについて、「林崎久仁子」という人名とその響きにこだわりがあるのはわかるが、この登場人物紹介的な運びは詩としてはあまりに陳腐で、出だしから躓く原因になりかねない、という意見もありました。三連とても良く、そこだけでも他連を秀作へと押しあげている、けれども、
 川は上流で妊娠し
 河口で中絶し流した
この意識が活きていないこと、
 川は女だった
 川は流れた
 女は林崎久仁子と言い
このたどたどしさ、そこは意図的であったとしても断絶させるものがあり、最終連もそれゆえに中途に持っていくように思える、という意見もありました。

3586 : 隣人の空似  りす ('09/06/12 00:04:36)
縦書きにすると実に映える作品、達観して上手い方へといってしまうのは少し寂しい、また壊してもよいかもしれない、
 空想と現実の
 合い挽きは食べられない
ここの印象を出していることに比べて、「!」の部は過剰すぎるかもしれない、という意見がありました。「僕たちの黄色い道具」「戦争は死んでいる」などの表現がずば抜けている、けれど前半の緊張感と輝きが感嘆符を機に次第に薄まり、「千回目のゾンビ」以降、一気に雪崩れてしまった感がある、前半と後半で(おそらくは)異なる捕虜の、他者のなかに自己を見いだし(作者が言うところの「捕虜が捕虜を飼う」)、最終的には後者である自己がクローズアップされる構成となっているようだが、後半の“俺の人生讃歌”的なノリがその成功を妨げている、前半の高い「解像度」を保ってほしかった、という意見もありました。相変わらず巧い、くすぐりの技巧、個性的なメタファー、凡作を公開しない姿勢、まるで温厚な詐欺師のようだ、という意見もありました。

3561 : ふじさん  いかいか ('09/06/01 18:51:33)
どうにでもなれ的なポジショニングからしか書けなくなっているのは残念だ、という意見がありました。適当さが、これを書くんだ、という余計な力を抜かせていて、体臭にまみれて鼻をつまませざるを得ない中から、ほど良く出ている、という意見もありました。

3588 : 17時のヴィーナス  ゆえづ ('09/06/13 20:34:14)
展開の濃厚さとキャラクターの極端な個性が作者の世界で見事に開き、動いている、デフォルメされた部位のある感覚は意識を掴む不思議さを錯綜させる、覗いている老警備員などの濃さなどなかなか描けないはず、意外と普通のことが異国のように思え筆の圧力に魅力を感じた、ただ、えぐるものがもう少し欲しい、目先の作品よりも大切な作者があるのでそれでも良いと思う、という意見がありました。足りないものを読み手が補いきれるだけの世界はある、と掴んだ、という意見もありました。

3610 : つる子さん Mademoiselle Tsuruko  はなび ('09/06/27 15:07:31)
どうでも良さが意味ばかり主張ばかりとは達観している部分の良さを醸している変な作品、90年代レディースコミックに近い感覚があった、という意見がありました。
 小さな穴があいていますが誰もその事を知りません
で含ませていて、最後の投げ出し的書き方で、含みのなさを感じさせるところがニクく、印象を深める、という意見もありました。 こんなアホな作品に注目する意識をよく考えて欲しい、という意見もありました。

3598 : エメラルドグリーン  ミドリ ('09/06/20 16:33:38)
読みやすく丁寧、それ以上のものが少ないかもしれない、という意見がありました。よい話だ、けれど読んでも読んでも、詩としてはそれ以上の広がりを持っていっていない部分もある、という意見もありました。

3608 : god is my co-pilot  debaser ('09/06/25 14:46:31 *2)
読ませまる作品、そこから一歩が少なく感じる、という意見がありました。

3611 : さっちゃんの卵   ミドリ ('09/06/27 17:28:43)
相変わらずお話は上手い、出来が良い、という意見がありました。 上手いけれども、上手い以上のことを求められてしかるべきかもしれない、という意見もありました。

3563 : 街  如月 ('09/06/02 14:44:26)
書いてあることと書きたいこと、新しい方向へと進みたいこと、多くのことが伝わって来る、硬質さと構成の技巧で詩という概念から打ち出していくのだとすれば、 作者の良さは薄まるかもしれない、しかし、これからどうなるのか見届けたい、という意見がありました。もう少し血の通った良さと、巧さの塩梅を見極めていく必要があるのかもしれない、膨らませられるかもしれない、という意見もありました。

3560 : 夜の闇、重なり続けていくもの  なつめぐ ('09/06/01 12:53:33)
タイトル変更して欲しい、狭めていて作品を窮屈にしている、悪くないけれども、もっと二人の背後に大いなる傷があっても良いように思える、前は醸せていた部分が置き去りになっている印象を受けた、という意見がありました。いつもより書けてはいるけれども、徐々に使える色を制限されているかのような、ある種のもどかしさが読後にあった、という意見もありました。関係性を描ききっていて、抒情的な良質さが各連から漂うのだけれども、最終連に行くまでに少し先が見えて来てしまい、その通りに終わっていく、裏切りはいらないけれども美しく終わる場合は、もう少し細部に慎重になって意識を保たせないと距離を取って読んでしまう、という意見もありました。

3589 : 友人、夏にて  破片 ('09/06/13 21:25:52)
小手先、技術、書きこみ、だけで成り立つ作品が多い中で、血肉が生々しく感じられた、一貫している煙草のイメージが、中間にいてしまう感情を当てているように感じた、という意見がありました。成長を見せつけられた、これからも楽しみな作者だ、という意見もありました。

・惜しくも選からは漏れましたが、その他、以下に挙げる作品が注目されていました。

3559 : ナッシン  ゆえづ ('09/06/01 12:27:52)
設定が尋常でない場所で始まる作品とは違った、作者の生活に根ざした作品と読んだ、人間を見事に描いている、ただ関係の中で自分を100点以上に描けていて他者が見えないのは少しだけ作品を奥まらせているかもしれない、他者と関係を描き上げたら大傑作になるのでは、という意見がありました。

3566 : 晴天  丸山雅史 ('09/06/03 00:54:14 *3)  
晴れている、今月は、この作品が一番印象に残ったかもしれない、拙さが味のある詩になっている、一方で非常に読みにくいとも感じた、という意見がありました。読みにくさの否めなさを本人は気づいているのだろうか、という意見もありました。

3577 : 禁煙旅行  チャンス ('09/06/08 23:07:39)
禁煙の苦しみが描けている、お見事と思った、カレーを食べる描写がいい、最後が怒りの絡まりで破裂することは、大体予想がつくので、もっと最後は乱しまくっても良かったかもしれない、という意見がありました。最終連はあまりに投げやり、という意見もありました。ネタとしては悪くないけれども二回は読まれない作品に感じる、そこが問題だ、という意見もありました。

3562 : 道のはた拾遺 5.  鈴屋 ('09/06/01 23:34:41)
悪くはないけれども、動かされる情動の欠落と、手渡しの短絡が機能していないように感じた、という意見がありました。無難、それ以外の感想がなかった、シリーズ作のようで、ほかの作品はいい感じだけに余計に浮いて見えてしまった、という意見もありました。絵画に詩を寄せることはめずらしいことではないけれど、人物画へのオマージュには正直どう接していいかわからない、示される道が描けていないのでは、という意見もありました。

3569 : 公園で後藤が燃やされている  深田 葵 ('09/06/04 10:26:01 *6)
一文目の良さについていけていない印象を受けた、良い素材が、まだ形になりきれていない印象、このままでも面白さがあるの、そこから傑作にして欲しい、という意見がありました。

3594 : 1000年まえに  永島大輔 ('09/06/17 21:46:22)

3602 : 虹を見ていた  んなこたーない ('09/06/23 02:38:44)

3609 : べーグル  枯葉 ('09/06/25 19:30:29)

3567 : 連作 巨人鳥  黒沢 ('09/06/03 01:31:52 *1)
物語だ、と感じた、巨大鳥=世界(あるいは混沌としたもの)という図式ははやい段階でわかってしまう、しかし文章が圧倒的にまずい、巧いヘタという以前に、引き込まれるような魅力がない、また、ラスト、この結論は書かなくてはならなかったのだろうか、伊藤比呂美の「人生訓のような結論のある詩は、詩の墓場です」という言葉が頭をよぎった、という意見がありました。書くのは大変だったのではないだろうか、過剰に解りやすくして、主張を出し過ぎていて、乗れない、ただ、小学校の高学年とかの時に読んでいたら、詩に溺れるきっかけになったのでは、と思いもした、という意見もありました。読んでいて疲れる、構成に失敗はしていないのかもしれないが、成功もしていない、とりあえず読んでもらわないと話にならないので、本作に限らず導入部から再考すべき、力み過ぎ、詩人達が読んでさえ疲れる作品を、作者以外に誰が読みますか? 作品を孤児にする必要はないけれども、甘やかせてもならない、と思う、という意見もありました。

さて、また、

今月は選考の際、
投稿作品にふるさを感じた、気持ち甘めの選考になったかもしれない、“小ぶりの優良作”が多かった、傑作になりそうな次点作品が多くもどかしかった、
などの意見が出ました。
付記しておきます。

以上です。

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凪葉氏の作品「無題」(2008)について

2009-08-09 (日) 03:42 by 天才詩人

凪葉 無題 2008-4

詩書きは自分自身について語るべきなにかを持たねばだめだとずっと思っていた。おそらく日本人にありがちな集合的心性も手伝ってのことだと思うが、詩書き自身の身体や意識のなかで起きる反応をそれ自体ひとつのユニバースとして掘り下げていこうとする発想が、わたしたちには(ちょっと控え目に言うと文学極道には)あまりに不足しているんじゃないか。たとえば、一方に感情的反応があり、他方にはその感情的反応を自己の人生に再文脈化する知的な作業がある。このバランスがひとつの静かな均整を達成したとき、他者に読まれうる「オリジナル」な芸術が生まれる。そんなことをずっと考えていた。

凪葉氏の「無題」は、この均整に近づいている稀有な例であるような気がする

「無題」(2008-04)が投稿されたとき、たしか誰かがあまりに自己陶酔的で読めたもんじゃない、というようなことをレスで書いていた。部分的には同感である。ここに書かれているのは徹底的に「私」の思いであり、その語り口は、どこにも「私」以外には対話の相手を見出さない。そのうえ、この作品には、弱い「私」が露呈されている。比喩ではなく、あからさまに、「私」は迷い、フラストレーションを感じている。しかし、凪葉氏のもうひとつの佳作「無題」(同じタイトル 2008-2)にも言えることであるが、この作品には多くの書き手が表層をなでるだけで終わってしまう、「世界性」が確実に表現されている。その「世界」はたとえば、真ん中あたりの

鳥の鳴き声、雲が描く風の姿、草木のさざめく音の群れ、
生憎のくもり空が心にしみた

の精巧な描写でいちばんクリアになるが、これは一義的に書き手に投影された世界であり、外部に実在を想定される「世界」ではない。たくさんの書き手がこのような自己の内壁によって分かたれた「世界性」を見ることなく、意識的に未分化なまま自分には何がしかのものが書けると勝手に自負して、文極に糞みたいな作品を投じる。迷惑である。ところで、凪葉氏の表現が稀有なのは、あらかじめ自己の外側にある「世界」を実体として把握するのを放棄した上で、心理の内部へ視点をシフトさせつつ、感覚を通じて心的空間に映し出される光景を俯瞰していることである。ここでは書き手のなかで加速度を増す「ここではないどこか」への衝動が彼(女)の主体性を超えて無限のユニバースに放出され、自己憐憫ではない、確固たる自己「表現」への通路を掘削している。

オープニングの

-わたしの中に、あると思っていた、永遠や、愛や、そういうものすべて、混ぜ合わせて包んだような、ひかりとか、抱きしめていた、朝、

からはじまり、エンディングの

-あの朝も、いつもと同じ眩しい朝で、きっと、これからも続いていく朝で、

にいたるまで、そこには自己の中心へと内旋していく意識の上に、薄暗い教会の内部に開いた天窓からさしこむひかりに似たユートピアの存在が暗示され、視線は世界内存在としての自己の輪郭を浮かび上がらせる。読み終わったあと、読者は、「永遠や、愛や、そういうものすべて、混ぜ合わせて包んだような、ひかり」がここでは単なる抽象にとどまらず、書き手の視界にしっかりと根をおろしたひとつのヴィジョンかであることを確認することになる。

えらそうなことを書いてきたが、この作品のはじめの一文は素直にすごいと思った。

-わたしの中に、あると思っていた、永遠や、愛や、そういうものすべて、混ぜ合わせて包んだような、ひかりとか、>>抱きしめていた、朝、

永遠や愛や、ひかりとか、そんな言葉を作品のオリジナリティにきちんと埋め込んだ上で読者の目を引き付けることが出来る、そんなセンス。言葉はどんどん磨り減っていくが、言葉と人間との出会いはそれぞれに新鮮であり、そこから生まれる感慨はたぶん磨り減ることがないんだろうと思う。

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